ちくわのぴょんぴょん読書日記 ~読書・読書会・哲学カフェ

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「君たちはどう生きるか」 吉野源三郎 ~ネタバレ度(中)

<大人になるということはどういうことか>

 

こんばんは。ちくわです。

読書・読書会・哲学カフェが好きです。

新しい事、楽しい事は、何でも試して、失敗して、楽しんで。

 

今日は、リバイバルでブームとなった、この本です。

 君たちはどう生きるか (岩波文庫)

 <内容紹介 amazonより>

著者がコペル君の精神的成長に託して語り伝えようとしたものは何か。それは、人生いかに生くべきかと問うとき、常にその問いが社会科学的認識とは何かという問題と切り離すことなく問われねばならぬ、というメッセージであった。著者の没後追悼の意をこめて書かれた「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」(丸山真男)を付載。

 

◆コペルニクス的転回/貢献感

この物語は、お父さんを亡くした主人公の「コペル君」が、お母さんや中学生の友達との間で起こったさまざまな出来事を、後見人である「叔父さん」との手紙のやり取りで語り合う、という構成になっています。

 

まずは、叔父さんのこんな言葉からです。

誰しも子供の頃は天動説、大人になるにつれて地動説へと変動していくが、手前勝手な考え方が根強く残っている大人もまだとても多い。 

 

主人公の「コペル君」というのは、叔父さんがこんな願いを込めて付けたニックネームです。

 

人間が大人になるということ。それは自分が「社会の一構成員」であるという認識の元、先人からつないできたバトン(=学問)を受け継ぎ、それを1歩進めたうえで、後輩に渡す役目を果たせるかどうか、叔父さんはコペル君にメッセージを強く託します。

 

また、ナポレオンが没落した背景を例に出し、こう述べます。

ナポレオンの素晴らしいところは、一人の人間がかくも行動力があるのだということ。封建制度を改めて自由な世の中を作ろうと民衆と一緒に戦ったこと。

しかし皇帝になると、「権力のために」権力をふるうようになる。自分の権勢をさらに強めようとし、楯突く者を退けるようになる、それは世の中に取ってありがたくない人に。 

つまり、ナポレオンの素晴らしいところは、人類のために事業をなした前半部分であり、そうでなかった後半部分は値打ちが無いと言いたかったのです。

 

この一連のやり取りから読み取れるメッセージは、

「自分は世界の中心であって、自分が感謝されたり、利益になるように行動する」という発想が子供の発想であって、

一人前の大人とは、

「たとえ感謝されなくても、自分が世の中の(他人の)役に立っていると思えばそれで充分満足を感じられる発想」

を持てることなのではないかと思います。

 

◆後悔の念という「経験」

この物語で、いざという時に足がすくんで友達を悪い奴から助けに行けなかったシーンがハイライトのひとつです。

 

その後謝罪の機会が暫く無いまま何日も経過し、そのことについてずっと後悔し、コペル君は外に出られずにふさぎ込んでしまいます。

 

そこで、お母さんが、自分の経験談として階段である老人の荷物を持ってあげられなかったことを持ち出し、

あのときああしておけばよかった、っていう後悔をして、次は出来て、自分の心の中が温まる経験をして、今まで心のきれいなものを活かし続けてこられている。

だからあのときのあの後悔はあって良かったと思う。

生きていくうえで肝心な事を一つ覚えられたから。 

と語ります。

何とも印象的ですね。

 

後悔というものはその時、とてもとても苦痛です。

やられた方よりもむしろ苦痛が大きいかもしれません。

 

でも、それはそれをしてみてはじめて苦痛だとわかるのであって、

だから、次は後悔の無いように思い立ったらすぐに行動しようって思うんですね。

 

実際この後、友達に会いに行って謝ったら、友達はそこまで思ってなくて、逆に出てこないコペル君のことを心配していたんですよね。

 

そんな経験がコペル君をまた一つ成長させたのです。

 

◆この本が書かれた時代背景

この本が書かれたのは1935年、小説家・山本有三が書こうとしていたが目の病気により書けなくなったため、吉野源三郎が代わりに書いたとされています。

 

折しも満州事変後全体主義の大いなる流れに逆らえない世の中で、著者は体制に安易に流されず自分で考えを持つことの重要性を述べています。

当時の社会では、反体制ともみなされることを勇気を持って書いています。

 

「答えの無いことに向かって、自分で考えること」というテーマについて、 

2011年梨木香歩さんがこちらの本を書かれています、こちらもとても良かったのでおすすめです。

 僕は、そして僕たちはどう生きるか (岩波現代文庫)

 

では、また!