<スカッとするのは「先入観」のせい!>
おはようございます!ちくわです。
読書・読書会・哲学カフェが好きです。
この何だかよくわからない人生に問い続け、その「わからなさ」を日々味わって楽しんでいきたいです。
今日は、この本。
内容<amazonより>
【第33回柴田錬三郎賞受賞作】
敵は、先入観。
世界をひっくり返せ!
伊坂幸太郎史上、最高の読後感。
デビュー20年目の真っ向勝負!
逆転劇なるか!? カンニングから始まったその作戦は、クラスメイトを巻き込み、思いもよらぬ結末を迎える――「逆ソクラテス」
足の速さだけが正義……ではない? 運動音痴の少年は、運動会のリレー選手にくじ引きで選ばれてしまうが――「スロウではない」
最後のミニバス大会。五人は、あと一歩のところで、“敵”に負けてしまった。アンハッピー。でも、戦いはまだ続いているかも――「アンスポーツマンライク」
ほか、「非オプティマス」「逆ワシントン」――書き下ろしを含む、無上の短編全5編を収録。
◆この本は
ボリューム:★★☆☆☆(厚くない)
読みやすさ:★★★★☆(読みやすい)
スリル :★★★☆☆(ほのぼのしている)
スカッと感:★★★★★(気持ちいい)
伊坂作品ですが、今回は殺されたり絶体絶命のピンチになったりはしません。
しかし、「正義は勝つ」のようなスカッとした気持ちになれる短編集になっています!
◆内容紹介・感想
この本は5つの短編で構成されており、それぞれ、小学校が主な舞台で、子どもが主人公になっています。
物語自体は独立していますが、他の物語の人物がちょっとだけ登場する、いつもの伊坂独特のワールドは健在ですよ。
<逆ソクラテス>
この本のメインとなる表題作。先入観で子供をひいきする先生に対し、賢い転校生が知恵を絞り、みんなで協力して「思い込みに気付かせる」ドッキリを仕掛けます。
<スロウではない>
足の遅い主人公のグループがリレーに選ばれてしまった。いじめっ子のリーダー格の女子との対決が見ものです。
<非オプティマス>
やる気があるのかよくわからない頼りない先生と、スネ夫のような態度が鼻につくお坊ちゃんと、貧しい身なりの転校生の驚きの逆転劇。
<アンスポーツマンライク>
バスケでつながったグループが、素晴らしいコーチに出会い、体罰や恫喝の無意味さに気付きます。通り魔との対決は痛快です。
<逆ワシントン>
何日も休みだした友達に対し、「虐待ではないか?」と心配した主人公たちが、友を助け出そうと奮闘する心温まるお話です。
5つの物語を通して、テーマにおかれているのが「先入観をひっくり返せ!」。
この世は競争社会で、多少汚いことをしてもうまくやった人が生き残り、それがある意味正義であったりもします。
でもそんな世の中に対し、子どもの純粋な気持ちをうまく活かし、「スカッとジャパン」的な逆転劇で敵だっと人をギャフンといわせたりするところが気持ちいいんです。
人は死なずとも伊坂作品の醍醐味は健在です。
そかしそれだけではありません。子供の世界も大変なことが多いですね。
いじめはいつの時代もなくならないし、暴力的な言動をする指導者も依然多くいます。
そんな教育においての課題を作中にうまく配置しながら、それでいて難しくならずに一緒に考えてみよう、とさせてしまうのがさすがなところです。
さて、この物語の主題となっている「先入観」です。
先入観というのは「囚われちゃいけない=悪」と考えがちですが(これも先入観)、決してそうとは言えなくて、「ごくありふれたもの」だということがわかります。
この物語の中には、さまざまな「先入観」や「決めつけ」がエピソードとして出てきます。
「逆ソクラテス」の先生のように、弊害となるものが最初に紹介されていますが、
「スロウではない」の転校生のように、いじめ対策としての「目立たない子のように印象付ける」という先入観を活用していますし、
「非オプティマス」の先生は、「評判というものはとても大切です」と説くし、彼自身の頼りなさげなところからの変貌が「ギャップ萌え」すら生み出しています。
もっと日常的なことを言うと、先入観は人が生きていくうえで必要不可欠、とさえ言えます。
例えば、ご飯を食べるにしても、「これは食べられるはず、美味しいはず」と信じているから食べられるし、ただ歩くにしたって、「踏み出した先には地面がある」という先入観があるからこそ、ふつうに足を踏み出せるものですし、「時計を見て電車を待っていれば来る」という先入観があるからこそ、ちゃんと移動できています。
もし先入観がないと、日常的な動きのほとんどができないでしょう。
だから、「先入観に囚われちゃいけない、逆の動きをしなければならない」って考えるのはナンセンスだということがわかります。
では、「先入観」とどう付き合えばいいのでしょうか?
それは、「先入観は常にあるということ」それ自体を日々思い出すことで、各自試行錯誤しながら手探りで行動するしかない、と気付くことがこの本の狙いではないか、と個人的には思いました。
学校とは、教科書に書いてあること(=答えのあること)を学ばせる場なのですが、
大人になってじっさい社会に出てみると、先入観次第でどうとでもなること(=答えのないこと)ばかりで、
そんな中で自分がどう決断しながら生きていくか、ということが生き方のメインになってきます。
この作品では、そんな学校の中にあっても、「人は見た目によらない」だとか「先生の言うことは常に正しいわけではない」とかいうように、
答えのないことを考える機会がいくらでもあって、むしろそっちを考えていくほうが人生にとって大切なことなんだよ、ということを、
やんわり考えてもらうように仕向けているように感じます。
というふうに、難しそうなことをダラダラと書いてきましたが、この物語がどうして「スカッとする」のか、ということを考えると、それこそが「先入観とのギャップ」なんだろう、と改めて気づいたのでした!伊坂作品、恐るべし。
おすすめですよ~。
では、また!