<仮想現実と現実が交差する中で>
おはようございます!ちくわです。
読書・読書会・哲学カフェが好きです。
この何だかよくわからない人生に問い続け、その「わからなさ」を日々味わって楽しんでいきたいです。
今日は、この本。
内容<amazonより>
舞台は、「自由死」が合法化された近未来の日本。最新技術を使い、生前そっくりの母を再生させた息子は、「自由死」を望んだ母の、<本心>を探ろうとする。
母の友人だった女性、かつて交際関係にあった老作家…。それらの人たちから語られる、まったく知らなかった母のもう一つの顔。
さらには、母が自分に隠していた衝撃の事実を知る――。
ミステリー的な手法を使いながらも、「死の自己決定」「貧困」「社会の分断」といった、現代人がこれから直面する課題を浮き彫りにし、愛と幸福の真実を問いかける平野文学の到達点。
読書の醍醐味を味わわせてくれる本格派小説です。
◆この本は
ボリューム:★★★★☆(やや厚め)
読みやすさ:★★★☆☆(しっかり追ったほうがいい)
感動 :★★★☆☆(じわじわ来ます)
考えること:★★★★★(とことん問いかけてきます)
舞台は20年後の近未来。「自由死」を選んだ母をVF「バーチャル・フィギュア」として蘇らせ、その「本心」を探ろうとする主人公、朔也。
彼の仕事である「リアル・アバター」を通じて出会う、足の不自由な青年、イフィー。
「現実」とは何なのか。「生きる」とはどういうことなのか。テクノロジーが進歩した今だからこそ、改めて問い直してみるのもいい機会です。
読書をゆっくり、じっくり味わいたいと思う作品。
◆内容紹介・感想
この本を楽しむにあたって、ネタバレはさほど重要ではないと思います。作中にちりばめられたテーマを起点に、それぞれが思考をめぐらすことが出来れば、それがとても楽しいことのように思えます。
私が印象に残ったフレーズから、内容と感想について、3点ほど書いていきたいと思います。
・「仮想現実」
この作品を一貫しているテーマが「仮想現実と現実」です。
VR技術が進歩した20年後には、仮想現実が現実と交差し、亡くなった人をAIで再生したり、もうひとりの自分をアバターとして別世界に存在させたり。その仮想現実を活用した生活が非常にリアルに表現されています。
VRが浸透した世界だからこそ、そこに「今ここにいる自分の意味」「今を生きることの意味」という根源的な問いが自然と生まれてくるのです。
VRにのめり込むということに対し、「『リアル』に馴染めない人の逃げ道」、というネガティブイメージはもうそろそろ古いように感じます。
むしろ仮想現実には「もうひとりの自分」が存在し、それはリアルより遥かに自由で、広大な可能性があるということを感じました。
・「死の一瞬前」
「自由死(安楽死)」を選択したお母さんは、「老いて息子に苦労やお金をかけさせるぐらいなら、幸せな今のうちに、息子に手を取られて死にたい」という気持ちを生前に表明します。
しかし息子の朔也は納得がいかず、賛成することはありませんでした。
子を持つ親が年老いると、そのように考えるようになる日が来るのは、想像に難くないように思いますが。
ではいったい「幸福に死ぬ」とは、どういうことでしょうか?
「死ぬ」ということは、究極の苦しみでありながら、自分では実際に体験することが絶対に出来ません。朔也の言うように「死の一瞬前」を体験するということしかできないんです。結局自分が死ぬこととは「どういう気持ちを持って死の直前を『生きる』か」ということと同義のような気がします。
・「本心」
主人公の朔也は、VF(バーチャル・フィギュア)となった亡きお母さんに語りかけ、その「本心」にたどり着こうと試みます。しかしながら、それは全く的外れの試みであることにすぐに気づきます。
なぜなら、VFは制作されてから、外部から情報を蓄積するもので、決して亡くなった人の隠された気持ちを見つけることはできないのです。
では、「本心」とは、この本でどういうメッセージを意味するのでしょうか?
作中で登場するキャラクターのそれぞれの「本心」に迫ろうとするシーンがいくつかあります。
お母さんをはじめ、キャラクターの「本心」には、どうやったってたどり着くことが出来ません、なぜなら他人であって自分ではないから。そんな単純なことに気付かされます。
だからこそ、他人に対しては言葉でのコミュニケーションが大切で、日常的に誤解が生じたりすることを前提にしながら他者と共に生きていくことしかないのかな、と感じるのです。
主人公の朔也自身の「本心」について考えるシーンもあります。自分はお母さんの「本心」を知ってどうしたいのか?知ったところで当のお母さんはもういないのに。
自分の気持ちに整理をつけたいだけなのでしょうか?だとすると自分の「本心」を理解することが出来た時がゴールなのでしょうか。
取り立てて才能もないと、陰鬱としていた朔也でしたが、ラストでは少しずつ未来に前向きな気持ちに変化できています。
格差や貧困など、将来への絶望を連想するシーンもありますが、それだけではなく、人間であることそのものに希望を持たせてくれた締めくくりに持っていってくれたことに、感謝したいと思います!
では、また!