<価値観というものはどういうものかを考える>
おはようございます!ちくわです。
読書・読書会・哲学カフェが好きです。
この何だかよくわからない人生に問い続け、その「わからなさ」を日々味わって楽しんでいきたいです。
今日は、この本。
内容<amazonより>
第19回 本屋大賞ノミネート!
【第34回柴田錬三郎賞受賞作】
あってはならない感情なんて、この世にない。
それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。
息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づいた女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人物の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。
しかしその繋がりは、"多様性を尊重する時代"にとって、
ひどく不都合なものだった――。
「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、
そりゃ気持ちいいよな」
これは共感を呼ぶ傑作か?
目を背けたくなる問題作か?
作家生活10周年記念作品・黒版。
あなたの想像力の外側を行く、気迫の書下ろし長篇。
◆この本は
ボリューム:★★★☆☆(少し長め)
読みやすさ:★★★☆☆(ところどころ、つらいところも)
衝撃的 :★★★★★(設定が衝撃的すぎる)
考えるテーマ:★★★★★(問いの素が無限に出てきます)
自分の理解の及ばない部分に想像を巡らそうとする人と、一方で自分の価値観を死守するために例外を排除しようとする人がいます。
少数派に立つ当事者側の心理描写が素晴らしく、さらに、周囲の人たちの対立表現が特に面白かったです。
この本は「傑作」と言い切っていいでしょう。
◆内容紹介・感想
朝井リョウさんの物語はいくつか読んできましたが、ここまで衝撃的とは。
読後は、ぐったり疲れて、ため息が出ました。
とりあえず、今日は、ネタバレを抑えた内容紹介と、簡単な感想を書いていきたいと思います。
そして、日を改めて、ネタバレ込みの感想を書きたいと思っています。
この本は、当初、主人公が3人いて、それぞれの視点で物語が進んでいきます。
その後、それぞれの物語内で交替したり、交差したりするのですが、ひとまず3つの場所で進んでいきます。
まず1人目が、検事の寺井啓喜。
彼の息子が不登校になり、「小学校へ行かずに動画配信を続けるインフルエンサー」に憧れてしまいます。
父、啓喜はどうしても元のレールである学校へ戻そうと努力しますが、母親は「本人が一生懸命になっているのだから」と息子のいまの姿を応援します。
そして2人目が、大学生の神戸八重子。彼女は学祭の実行委員で、伝統行事だったミスコンをやめ、多様性を考える「ダイバーシティイベント」を企画していきます。
彼女は引きこもってしまった兄が鑑賞していたビデオを見つけて、男性や性行為に対する恐怖感を持っていて、ずっとそのことを引きずっていますが、学祭の実行委員会で初めて、諸橋大也という男の子に恋をします。
最後に3人目が、寝具店で働く社会人の桐生夏月。彼女は「普通」とされる「男性に恋をする」ということができず、かといって性的マイノリティにも入るかどうかわからない。
彼女は実は、「ほとばしる水しぶき」にしか性的興奮を感じない、という何とも特殊な性癖の持ち主なのでした。
この、夏月の特殊ともいえる性癖が、実はこの物語の軸になってくるのです。
この3つの物語がどうやって重なっていくかというと、少しだけネタバレに入ってしまうのですが、
神戸八重子の章で、八重子が諸橋大也に恋をしたのは、実は彼が性的マイノリティなのではないか、という八重子の勘からきていて、八重子はなんとか彼を覆っている殻を破ってあげようと対話を試みるんですね。
しかし、実のところ諸橋大也は桐生夏月と同じ性癖を持っていて、諸橋大也にとってはこの性癖は「誰にも理解されないものだから放っといて欲しい」と思っています。
しかし八重子は性的マイノリティの範疇で考えているので、話がかみ合わないんです。
そして、寺井啓喜の章がどうつながっていくかというと、やがて彼の息子が自ら動画配信を同じ境遇の男の子と始めるんですね。
そして最初は閲覧数が伸びず、少数の閲覧者から来る「リクエストに応える」ということをやっていました。その「リクエスト」の中に、「水風船を割ってほしい」等の依頼が来るようになります。
これは、どういう人からのリクエストかというと、この流れでわかりますよね、、。
という感じで物語は進んでいきます。
これ以上はネタバレが多くなってくるので、あらすじはこの辺までにしておきますが、この物語のどこが凄まじいかというと、
やはり、この「水がほとばしるところにしか性的興奮を覚えない」という特殊性癖の設定だと思います。
この特殊性癖を設定することによって、LGBTQといった「理解される性的マイノリティ」との対比ができてくるということです。
「理解されない側」に生まれてしまった、桐生夏月のような人たちは世界をどう見ているのか、どうやって世界と関わっていけばいいのか。
「マイノリティを理解して、差別をしない」という考えは確かに浸透しつつありますが、この本を読んで、もう一度その考えを壊されていく感覚を味わうことになります。
それはとてもしんどい体験ですが、価値観というものはどういうことかを考え直すことができ、この本を読んで良かったと思います。
といったところで、いったんネタバレ少しの感想はひとまず終わりにしまして、続きは日を改めたいと思います。
では、また!