<考えることが多すぎて>
おはようございます!ちくわです。
読書・読書会・哲学カフェが好きです。
この何だかよくわからない人生に問い続け、その「わからなさ」を日々味わって楽しんでいきたいです。
今日は、この本。
内容紹介<amazonより>
凶悪な事件が起きると人々は言う。「被害者と同じ目に遭わせてやりたい」と。
20××年、凶悪な犯罪が増加する一方の日本で、新しい法律が生まれた。
それが「復讐法」だ。目には目を歯には歯を。この法律は果たして
被害者たちを救えるのだろうか。復讐とは何かを問いかける衝撃のデビュー作!
◆この本は
ボリューム:★★★☆☆(普通)
読みやすさ:★★★☆☆(読みやすい)
感動 :★★★★☆(愛する人を真剣に考える気持ち)
読後の宿題:★★★★★(たくさんもらいました)
復讐法は、被害内容と同じことを刑罰として執行できます。しかし、「自らの手で」刑を執行しなければならない、としたことがこの小説の最大の妙味です。
5つのエピソードそれぞれに論点が違い、正解のない問いに一緒になって考える、凄い小説でした!
◆内容紹介・感想
この物語のテーマとなっている「復讐法」。
もし、被害者や被害者の家族が、直接加害者に復讐することができたら?
そんな架空の設定が、なんとも哲学的な世界を生み出すことになるのです。
この物語は5つの短編で成り立つ連作小説です。
5つの物語を通して登場するのは、この「復讐法」の運用を管理する「応報監察官」という職務についている鳥谷文乃という人物。現在でいうと、死刑に立ち会う刑務官のような仕事でしょうか。
「復讐法」は、凶悪犯罪の刑罰に対して、「旧来の懲役刑」か「復讐法に則り、被害者(または身内)が復讐する」かを選ぶことができます。
ただし、復讐法を選択すると、被害者がやられたことと同じことを「自らの手で」やり返さなければいけません。
この物語を構成する5つの短編は、それぞれケースの違うエピソードで、それぞれに考える論点が違って、読むたびに人が人を裁く難しさが見えてきて、いかにこの「復讐法」という設定が絶妙だったか、唸るばかりです。
各エピソードの人物設定だけ、紹介しておきます。
(1)サイレン
被害者:19歳の4人に集団暴行を受け、殺害された16歳の少年。
加害者:主犯格の男。
復讐法の選択権利者:被害少年の父親。
⇒子を殺された親が加害者に復讐するという、真っ先に考えられるケースです。
(2)ボーダー
被害者:加害者の祖母。
加害者:孫である16歳の少女。
復讐法の選択権利者:加害少女の母親。(被害者の娘)
⇒2話目は、ちょっと変化球できました。家族を殺すような娘に育ててしまい、もう、殺してしまうしかないと考えた母親という構図です。
(3)アンカー
被害者:都会の真ん中で起こった無差別殺傷事件の被害者
加害者:無職の男(27歳)
復讐法の選択権利者:被害者の親族(+婚約者)
⇒このエピソードでは、復讐を選択できる対象者が3人になるところがポイントです。自分で加害者に手を下すことに対し、それぞれに意見が食い違い、議論を戦わせるところは、読みごたえがあります!
(4)フェイク
被害者:10歳の少年
加害者:少年の友達の祖母(霊能力者)
復讐法の選択権利者:被害少年の母親
⇒これも(2)のように、ちょっとひねりがきいています。どうして加害者が孫の友達を殺さなければいけなかったのか?そこにミステリーの要素が入ってきます。
(5)ジャッジメント
被害者:5歳の少女
加害者:少女を育児放棄で死なせた両親
復讐法の選択権利者:少女の兄(10歳)
⇒10歳の子どもが、復讐を執行するというところからして、この制度の問題をあぶり出しています。復讐をする側も、後の人生に引きずるような相当のダメージを受けてしまいます。またマスメディアの注目を浴びてしまうことになるこの少年の将来は?いろんなことを考えさせられます。
鳥谷が見つめる復讐劇の内幕とは、、。
復讐には終わりがない、こんな制度はやめるべきだ、という感情と、もし自分の身内が殺されたら冷静な判断ができるのか?という感情、どちらも納得できるもので、どちらが正しいかという答えは永遠に出せないでしょう。
また、当事者たちの葛藤だけでなく、彼ら・彼女らは、外野である民衆やマスメディアの反応にも晒されることになります。
その描写がなんともありそうなリアリズムにあふれていて、さらに考えることが増えてしまうんです。
「復讐できる」、だけでなく、「被害者の手でやらねばならない」としたところが、この物語の巧妙なところです。
正解なんてものはないのか?正義とはいったいなんなのか?読後の宿題が多すぎて、、。
とにかく、これはすごい小説でした。読めてよかったです。
感想は以上になります!
では、また!