みんなの日常哲学カフェ ~哲学カフェとか読書とか

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旧:ちくわのぴょんぴょん読書日記

「我ら闇より天を見る」クリス・ウィタカー ②(ネタバレ:有)

<最後の最後に、すべてのピースがハマります>

 

おはようございます!ちくわです。

読書・読書会・哲学カフェが好きです。

この何だかよくわからない人生に問い続け、その「わからなさ」を日々味わって楽しんでいきたいです。

 

今日は、この本の続きを書いていきたいと思います。

 

前回の記事はこちら。

chikuwamonaka.hatenablog.com

 

今日は、「ネタバレ有り」で感想を書いていきたいと思います。

重要な部分を明らかにしてしまうので、本作を読んでみたいという方は、このブログ内容を読まずに、本を読んでください。

 

◆感想続き

本作の一番の楽しみは、謎解きが結構難しくて、最後までしっかり読まないと、全部のピースがはまっていかないということだと思います。

それゆえ、登場人物もわからない真実に振り回され、ボタンを掛け違えたまま、悲しい結末へと向かっていく、ということなんです。

 

そして、この物語は一貫して、主人公の少女ダッチェスと、弟のロビンだけには、何とか幸せになってほしいと願いながら読ませていくところですね。

ダッチェスは自ら放火をしてしまった過ちで、つまづき人生を歩んでいくことになりますが、それでも生まれてきた環境がそうさせたのであって、必死で親を守る気持ちからでした。

彼女は、親が薬とアルコールにハマり、あげく殺されてしまうところから次々と不幸が重なります。

疎開先の祖父も殺され、次に児童保護施設に入り、その後もひどい里親に預けられるという、壮絶な運命をたどっていきます。

それでもダッチェスは「何とか弟だけには幸せになってほしい」と必死に生きていこうとします。

しかし、どうしてもうまくいかない。弟に「もう、おねえちゃんなんかいないほうがいい!」となじられるシーンは、読んでいて堪らないものがありましたね。

 

謎解きに戻りますが、このストーリーの主軸は、ダッチェスの母親、スターの殺人事件です。

誰がスターを殺したのか、それが最後の最後まで明らかにされません。

警察は早々に、元友人で、ムショ帰りのヴィンセントを、彼の自白から容疑者として逮捕します。

いっぽう、幼なじみの保安官ウォークは、「ヴィンセントはきっとやっていない」という根拠があまりない直観を信じ、以前からいざこざを起こしていたダークが犯人だと考え、彼を個人的に捜査し始めます。

 

容疑者としてあがっている、ヴィンセントと、ダークは本当は悪い奴なのか、そうではないのか、読んでいくうちに登場人物だけでなく読み手の評価がコロコロ変わっていくところ、そんなからくりがこの謎解きを一番難しく、面白くさせるところだと思います。

 

全ての謎が解けたとき、原題の「We begin at the end」の意味がようやく解ります。

大人たちは、自分のゴールを見据えながら、それぞれの行動を選択していったということですね。

 

まず、保安官ウォークです。ダッチェスと並んで、もう一人主人公の彼は、パーキンソン病を患っていることが早々にわかっていて、だから遠くない未来に自分が動けなくなるまで、命のカウントダウンが刻まれている中で、必死で友人と子どもたちを守ることだけを考えて行動していました。

時には、警官として正しくないことをしてでも。

 

そして、ヴィンセントです。どうして、彼はスターの妹を死なせてしまった過失で30年も刑務所に入り続けたのか。

スターの殺人事件でなぜ「自分が犯人だと」早々に自白したのか。彼はほんとうにスターを殺害したのか、していないとすれば、誰の罪をかぶっているのか、どんな秘密を隠しているのか。とにかく謎だらけなんですね。

しかし彼も、終わりを見据えて行動していました。もっとも大きなネタバレは記述を避けますが、しくじってしまった自分の命はもう要らないから、目の前の不遇な2人の子供たちを守ることだけ考えていました。

 

最後、ダークです。彼に関する謎は、さらに謎を呼ぶ。最大のキーパーソンです。

不動産業を営み、バーを経営し、街の評判はあまりよくなく、スターと関わることで、ウォークに疑われることになります。

しかし彼も、しっかりと終わりを見据えて行動していました。終盤にダークの娘の存在が明らかになりますが、彼の行動は全てその娘を救うための選択であったことがわかります。

自分の命は、別に要らないから、この子を助けたい、たとえ、正しくないことをしても。

 

一番、「やられた!」と思った謎解き、それが、ダッチェスがダークの所有するバーに火をつけた場面の、防犯カメラのビデオテープはどこに行ったのか?という謎です。

でも、ダッチェスはそのビデオテープを早々に捨ててしまっていました。怖かったから。

でもそのビデオテープが見つからなければ、ダークに火災保険金が下りないで困るから、ダークはダッチェスを追いかけ、ダッチェスの祖父を死なせてしまうという悲劇まで起きてしまいました。

全ての真相が明らかになったラストシーンで、そのビデオテープは、なんとダークが所有する貸倉庫で発見されます。

読んでいる自分は「え!?」としか言えませんでした。こんなにも、文字通り死にものぐるいでダークが探していたものをまさか自分の倉庫に持っていたなんて。

でも、なぜ、どうして、そのビデオテープがここにあるのか??それは、2度読み返して、やっとわかりました。

ちなみにこの謎は、解けなくてもまぁ、ストーリーの本線には影響しないのですが、「ボタンの掛け違い」を象徴するほんとに上手い、ボーナスの仕掛けでした。

 

この他にも、謎解きを混乱させる肉屋のミルトンによるストーカー行為とか、隣人の自動車狂ブランドンのいざこざなど、本線の謎解きを混乱させるミステリーが挿入されていて、けっこう登場人物も多いので、ほんと、しっかり読んでいかないと、この長編ミステリーを味わい尽くすことができないと思いました。

でも、それだけに、すべてのピースがハマったときは、スッキリしますよ。

 

感想は以上で終わります。どうもありがとうございました。

では、また!