ちくわのぴょんぴょん読書日記 ~読書・読書会・哲学カフェ

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主に読書メモ・読書会・哲学カフェについて書いています。

「悪人」 吉田修一(ネタバレ:少)

<ミステリーではなく、ヒューマンドラマ。>

 

おはようございます!ちくわです。

読書・読書会・哲学カフェが好きです。

この何だかよくわからない人生に問い続け、その「わからなさ」を日々味わって楽しんでいきたいです。

 

今日は、この本。

 

内容<amazonより>

小説、映画ともに大ヒットした不朽の名作。

福岡市内に暮らす保険外交員の石橋佳乃が、
出会い系サイトで知り合った土木作業員に殺害された。
二人が本当に会いたかった相手は誰なのか?

佐賀市内に双子の妹と暮らす馬込光代もまた、何もない平凡な生活から逃れるため、携帯サイトにアクセスする。
そこで運命の相手と確信できる男に出会えた光代だったが、彼は殺人を犯していた。
彼女は自首しようとする男を止め、一緒にいたいと強く願う。
光代を駆り立てるものは何か?

その一方で、被害者と加害者に向けられた悪意と戦う家族たちがいた。
悪人とはいったい誰なのか?
事件の果てに明かされる、殺意の奥にあるものは?

毎日出版文化賞と大佛次郎賞受賞した著者の代表作。

◆この本は

 

ボリューム:★★★★☆(なかなかあります)

読みやすさ:★★★★☆(読みやすい)

奥深さ  :★★★★★(読むにつれてどんどん)

感動   :★★★☆☆(人間模様、って)

 

ほんとうの「悪人」は、いったい誰なのか?読み進めば進むほど、人物評価が不安定になっていく。

 

◆内容紹介・感想

「福岡市内に暮らす保険外交員の石橋佳乃が、出会い系サイトで知り合った土木作業員に殺害された。」

という事実の書き出しから始まるこの小説。

 

そう、最初の時点で、犯人は土木作業員である清水祐一であることがわかっています。

読者には犯人が分かっていながらも、バレずに祐一は暮らし、さらに事件直前に佳乃が会っていたとされる増尾圭吾という大学生の存在があって、事件の捜査は長引いていきます。

 

そんな中、どうやって、警察は犯人を追い詰めていくのか?といった古畑任三郎的な物語ではありません。

 

吉田修一作品の特徴なんですが、この本も、章によって主観視点がそれぞれのおもな登場人物のものに次々に代わっていくものです。そして、その中から登場人物の人となりを読者自身が体感していく、そんな独特の読書体験ができます。

 

まずは被害者、殺される前の石橋佳乃です。久留米で小さな理髪店を営む実家に生まれ、地味なイメージでしたが、実際は出会い系サイトから金銭目的で複数の男と肉体関係をもっていて、その中のひとりが祐一であったということ。

 

そして、祐一。小さい頃に母親に捨てられ、祖母に育てられて長崎の港町で解体作業を営んでいる親戚の世話になっていました。唯一の趣味といっていい、車。あとは出会い系。

 

そして、佳乃が合コンで知り合って一方的に片思いをしていた、増尾圭吾。彼は典型的な金持ちのボンボンで性格もあんまりよろしくない。

 

最後に、佐賀で妹と二人で暮らしていた馬込光代。彼女も出会い系で祐一と出会い、そして、彼が殺人を犯していたことを知り、祐一と彼女の二人によって物語はクライマックスを迎えていきます。

 

その他、祐一の祖母、石橋佳乃の両親、増尾圭吾の友人など、脇を固める人物の視点でのエピソードも、この物語に深みを増していきます。

 

この小説は「出会い系サイトで、恋愛感情のもつれから、OLを殺した」という事実とそこから受けるであろう一般的な感情をまずは起点にしています。

そこから、被害者はじめ周囲の人物の人となりを辿っていくにつれ、「本当の『悪人』は誰だったんだ?」という最初の感情とは全く異なるものへ変化していきます。

読者の人物評価が揺れ動き、感想を不安定なものにしていくこと自体が、この小説の醍醐味であるといえるでしょう。

 

いやー、面白かった。名作でした。

 

映画化もされているようで、この物語の価値をさらに高めるものになっているようです!

 

感想は以上になります!

 

では、また!