<おばあちゃんたちは最後に何をみたのか?>
おはようございます!ちくわです。
読書・読書会・哲学カフェが好きです。
この何だかよくわからない人生に問い続け、その「わからなさ」を日々味わって楽しんでいきたいです。
今日は、この本。
内容<amazonより>
八十六年の人生を遡る最後の旅が、図らずも浮かび上がらせる壮絶な真実!
日本推理作家協会賞 『愚者の毒』 を超える、魂の戦慄!
過去の断片が、まあさんを苦しめている。それまで理性で抑えつけていたものが溢れ出してきているのだ。彼女の心のつかえを取り除いてあげたい――
アイと富士子は、二十年来の友人・益恵を “最後の旅" に連れ出すことにした。それは、益恵がかつて暮らした土地を巡る旅。大津、松山、五島列島……満州からの引揚者だった益恵は、いかにして敗戦の苛酷を生き延び、今日の平穏を得たのか。彼女が隠しつづけてきた秘密とは? 旅の果て、益恵がこれまで見せたことのない感情を露わにした時、老女たちの運命は急転する――。
◆この本は
ボリューム:★★★★☆(やや厚め)
読みやすさ:★★★☆☆(難しくはない)
新しい学び:★★★★☆(歴史の勉強)
感動 :★★★☆☆(じんわりした余韻)
3人のおばあちゃんたちは人生最後の旅で、それぞれに何を得たのか。
「人生のしまい方」も考られえる良い機会となりました。
◆内容紹介・感想
認知症を患ってから、自らの記憶にうなされて苦しそうにする益恵に、なんとか気持ちの整理をつけ安らかに余生を過ごしてもらおうと、二人の親友、アイと富士子が旅に連れ出します。
その旅とは、益恵の過去住んでいた場所をたどる旅。
夫と死別した大津、夫と過ごした松山、満州引き揚げ後の五島列島。
旅をしながら益恵の人生を逆にたどっていきます。
それと並行して、子ども時代の益恵が、満州から引き揚げていく壮絶な体験を、益恵目線で少しずつ紐解いていく、
という小説の形式になっています。
この小説の大きなテーマが3つあると思います。
ひとつが「人生のしまい方」。
2つめが「満州引き揚げ」。
そして3つ目が「益恵に関するミステリー」。
ひとつめの「人生のしまい方」
認知症になった益恵は旅の後、施設に入ることになっています。
物語の語り手になっているアイは体は元気ですが、独り身で家族のゴタゴタを抱え、もうひとりの富士子は病気がちに。
それぞれに、人生のしまい方、言い換えれば「残りのひと時の生き方」について、思い、踏ん切りをつけ、歩きだします。
自分にとっては、たぶんまだ遠いですが、こういうことを考えるのは自分にとって大切なことのように思います。
ふたつめ「満州引き揚げ」
この物語のメイン、益恵の引き揚げ体験です。食べ物もなく、ソ連兵や地元民に襲撃にあい、疫病は流行り、電車は止まり、弱い者は置き去りにされていきます。
それをどうすることもできません、自分だって生きるのに精一杯なのです。
まさに壮絶としか言いようがありません。
11歳だった益恵は例にもれず、瞬間瞬間、いつ死んでもおかしくないような状況で幸運にも生き延びました。
4つのエピソードにつけられているタイトルが、益恵がその後愛した「俳句」で表現されているところが、この小説を情感をまた引き立たせるんです。
みっつめ「益恵に関するミステリー」
個人的には、上記の2つがメインでこれはオマケでもいいかなと思いますが、益恵本人にとっても良かったし、アイと富士子もそれぞれ個人的な踏ん切りをつけるためのきっかけになりました。
満州引き揚げをテーマにしている小説では角田光代さんの「ツリーハウス」がありますが、
これも似たような構成で、主人公のおばあちゃんの最後の旅として長春に同行し、並行しておばあちゃんとおじいちゃんの満州引き揚げ体験をつづっています。
しかし「羊は安らかに草を食み」は長春は引き揚げの終盤戦として紹介され、それより遠方からの人々はもっともっと壮絶だったことがわかります。
また中国戦線に行っていた益恵の夫に関してのエピソードも負けずにすさまじいものでした。
今を生きる自分たちにとっても、自分の祖父・祖母世代がこのような体験をしているうえで今の平和があるということを忘れてはいけないと思いました。
では、また!