<点が線になっていきます>
おはようございます!ちくわです。
読書・読書会・哲学カフェが好きです。
この何だかよくわからない人生に問い続け、その「わからなさ」を日々味わって楽しんでいきたいです。
今日は、この本。
内容紹介<amazonより>
「人類の歴史における闇」ともいえる、ヒトラー政権時代。
その数々の疑問に、最新研究をふまえ、答える。
当時の歴史やその背景を知るための入門書であり、決定版の書。
・ヒトラーはいかにして国民を惹きつけ、独裁者に上りつめたのか?
・なぜ、文明国ドイツで、いつのまにか憲法は効力をなくし、議会制民主主義は葬り去られ、基本的人権も失われたのか?
・ドイツ社会の「ナチ化」とは何だったのか?
・当時の普通の人びとはどう思っていたのか?
・なぜ、国家による安楽死殺害や、ユダヤ人大虐殺「ホロコースト」は起きたのか?
◆この本は
ボリューム:★★★☆☆(凝縮されています)
読みやすさ:★★★★☆(入門書として最適では)
学び :★★★★★(点が線につながりました)
考える :★★★★☆(災厄の背景を考える)
邪悪な独裁者ヒトラーはなぜ、欧州随一の先進国ドイツで絶対的独裁者になれたのか?そして、なぜホロコーストに至ったのか?ロシア侵攻とユダヤ人排除は当初からセットの構想だったこと。順を追った丁寧な説明で個々のすべての事象がつながりとして理解できました。
◆内容紹介・感想
ヒトラーがバイエルンから政治家としてのし上がっていったうえで、最も大きな要素は弁論の才があったこと。
軍人としては目立たなかったヒトラーが食い扶持を維持するため、軍に残り続けた結果、軍人の教育宣伝担当となり、その弁舌に磨きをかけていきました。
そんな中、戦後の混乱期に生じた多くの極右政党のひとつ、ドイツ労働者党に入党。弁舌の才を発揮しここで頭角を現していきます。
折しも第一次世界大戦敗戦後の貧しく、仕事のない時代で、労働者階級に狙いをつけた政党は、ヒトラーの弁論と「突撃隊」という暴力部隊をバックに、徹底的に集会を繰り返し(中身は抗議だけ)賛同者を増やしていったのです。
この本では、ヒトラーが首相になった要因は、選挙に勝ったからではなく、ヒンデンブルグが任命したからということを強調されています。
国会で3分の1弱しか議席を持っていなかったナチ党は、「強いドイツを取り戻す」という主張で、時の国家元首である猛将ヒンデンブルグに響かせました。
折しも世界恐慌により失業率は最悪の水準にあり、「ヴァイマル共和国ではダメだ」という国民感情も上手く利用しました。
首相になったヒトラーは、ミュンヒェン一揆失敗後の獄中で描いた青写真を次々実行に移していきます。
その根底にあったのが、「生空間」という構想でした。
・ドイツは優性人種であるアーリア人によって支配されるべきで、純血を保つために、人種は隔離せねばならない
・ヨーロッパ全体をアーリア人によって支配するために、ポーランドやロシアを確保し自給できる資源を確保する必要がある
・議会制は無責任であり、強いドイツのためには責任ある独裁がふさわしく、民主主義を推進するユダヤ人と、生命力を削ぐ共産主義は排除せねばならない
ヒトラーは、ユダヤ人と共産主義という2つの敵を明確にすることによって、国家を拡大していくという方針を取りました。
この構想の実現が、人類史上最悪の戦争、独ソ戦(東部戦線)になり、人類史上最悪の大虐殺、ホロコーストにつながってきます。
なぜこのような危険思想をドイツ国民が止められなかったかという疑問に対する、著者のひとつの答えは、一定の成功を収めていたユダヤ人を排除することによって、不況の時代において利益を得られる人が一定数いたから見て見ぬふりをした、といいます。
そしてその背景には、「プロパガンダ」(政治的宣伝)というのが力を発揮しました。
国を組織して動かすという政治的実力のないまま、プロパガンダによって拡大した勢力を駆って一気に進んでしまったヒトラーは足元の柔さから次第に自滅していきます。
この本の終盤には、ホロコーストに至る経緯について詳細に分析されています。
当初ユダヤ人は殺すのではなく隔離ないしは国外追放の方針でしたが、ポーランド方面への版図急拡大により、ユダヤ人の隔離が追い付かなくなった結果として、殺害へと至ったものとして解説されています。
ガス室が使用された前提として、ユダヤ人と並行して障害者の絶滅政策という恐ろしいプロジェクトも進んでおり、その際に使用されたガス室というやり方がユダヤ人に転用されたことを初めて知りました。
読み終えた後、世界恐慌や独ソ戦、ホロコーストなど個々の歴史的事象がひとつの線としてつながった、という感想を持ちました。
人類史上最悪、と何度も書きましたが、この人類最悪の失敗を経て現代があるということを理解するためにも、こういった歴史を知ることは重要だと思いました。
最後は月並みな感想になりましたが、とても丁寧に分析・考証されており、歴史に詳しくない私のような人間にも理解できる「優れた入門書」でもあると思いました。
感想は以上になります!
では、また!