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旧:ちくわのぴょんぴょん読書日記

「黒牢城」 米澤穂信(ネタバレ少なめ)

<歴史+ミステリー>

 

おはようございます!ちくわです。

読書・読書会・哲学カフェが好きです。

この何だかよくわからない人生に問い続け、その「わからなさ」を日々味わって楽しんでいきたいです。

 

今日は、この本。

 

内容<amazonより>

祝 第166回直木賞受賞!

本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の集大成。『満願』『王とサーカス』の著者が辿り着いた、ミステリの精髄と歴史小説の王道。

【受賞・ランキング入賞結果】
第12回山田風太郎賞
『このミステリーがすごい! 2022年版』(宝島社)国内編第1位
週刊文春ミステリーベスト10(週刊文春2021年12月9日号)国内部門第1位
「ミステリが読みたい! 2022年版」(ハヤカワミステリマガジン2022年1月号)国内篇第1位
『2022本格ミステリ・ベスト10』(原書房)国内ランキング第1位
「2021年歴史・時代小説ベスト3」(週刊朝日2022年1月14日号)第1位
『この時代小説がすごい! 2022年版』(宝島社)単行本第3位

◆この本は

ボリューム:★★★★☆(やや厚め)

読みやすさ:★★★★☆(とても読みやすい)

謎解き  :★★★★☆(官兵衛が鍵)

ストーリー:★★★★☆(最後に向かっていくところは哀しい)

 

荒木村重の籠城中に有岡城下で起こる殺人事件。それを村重が解いていくのですが、牢中の官兵衛が三毛猫ホームズよろしくヒントを授けていくという、異色の歴史ミステリーでした。村重も光秀同様、謀反の原因が解明されておらず、こういう解釈も面白いですね。

 

◆内容紹介・感想

この本は、歴史小説にミステリーを融合させた、かなり面白い構成になっています。

 

主人公は、織田信長の部将でありながら、伊丹有岡城に籠城し主君に反旗をひるがえした荒木村重という人物。

この荒木村重という戦国武将は私はあまり詳しく知りませんでしたが、読んでみるとなかなか智勇を兼ね備えた猛将であることがすぐにわかります。

また、出てくる地名が伊丹や池田、尼崎や茨木など関西なじみの場所ばかりで親近感がわき、現在の場所と比較してみても興味深いです。

 

そして忘れてはならない、黒田官兵衛。

これを生き延びて秀吉の軍師として重用されることになりますが、村重の謀反を翻意させるために入城しましたが、村重により捕らえられ、土牢に閉じ込められてしまいます。

 

物語は、4つの章+終章で構成されており、それにともない4つの謎解きが行われます。

 

<1.雪夜灯籠>:冬

生かして牢に閉じ込めておいた人質が、夜の間にいつの間にか殺されていました。

その夜見張りをしていた御前衆の中に、必ず犯人はいるはず!?

 

<2.花影手柄>:春

有岡城東の地に夜襲をかけ勝利をおさめたものの、大将首が見つからない。

果たして、だれが大将を討ったのか?戦国ならではのミステリーですね。

 

<3.遠雷念仏>:夏

極秘に信長方との講和を画策していた村重ですが、使者として頼っていた僧が、密書をたずさえたまま、殺されてしまいます。

そんな城にとっての一大事、村重は犯人を見つけ、その動機について解明することができるのか?

 

<4.落日孤影>:秋

籠城も長くなってくると、将たちの士気も下がってきます。

そんな中、さきほどの事件の容疑者を遠くからひそかに狙っていた人物がいたことがわかります。

城中で城主の村重に断りなく私刑を実行する者はすなわち謀反とみなされる重大な事件です。

村重はこの出来事を調査しているうちに、最初からの一連の事件がひとつに繋がっていく、、。

そしてエピローグへ、、。

 

<感想>

この物語は、猛将村重の謀反による籠城をスタートラインに、最後は歴史に語られているように、村重単身での逃亡と有岡城の落城という結末が待っています。

その中で物語を組み立てるにあたって、将の士気が下がり心が離れていくということをうまく表現しています。

最初は「信長何するものぞ」であったのが、兵糧も少なくなってくると、確かにそうなってきますよね。

 

そして、忘れてはならない、官兵衛の存在です。(これ言うの2回目)

この物語のカギを握っていると言っても過言ではありません。

謎が解けずに困り果てた村重が、その知恵を借りに一話に一度、官兵衛の牢を訪れ会話をするシーンがあります。

謎解きのヒントを、絶妙のメタファーを用いて授けるさまは、まさに三毛猫ホームズのような存在なんです。

牢に閉じ込められているのに、会話の中から戦況とその先の趨勢を読み、牢の中においても存在感を示し続ける官兵衛の知略が見ものです。

 

うまく史実にミステリー要素を織り交ぜながら、荒木村重という人物を描いていった、たいへん興味深い小説でした。

この村重という人物は、のちに信長を倒すことに成功した明智光秀とは、謀反を起こしたという共通点がありますが、村重は失敗したが自分だけが生き残り、光秀は成功したが自分はすぐに討たれてしまう、という、どっちがよかったのかわからない結末でしたね。

それだけに、村重の、読者にヒーローと思わせず、評価が変化していくような人物描写が、見どころなんです。

 

そして、この二人はともに、「謀反の理由がはっきりと解明されていない」というところでも共通していますよね。

だから、歴史小説において独自の解釈は入ってドラマになる、という側面もありますね。

 

感想は以上です!ありがとうございました。

では、また!